インフルエンザウイルスの進化動態シミュレーション
病原体の遺伝子配列には、長年にわたる宿主との攻防の歴史が刻まれています。私達は、データ同化を念頭に置いてビッグデータに値する情報として蓄積しつつある病原体の遺伝子配列を利用し、「流行予測」を実現させるため、メカニズムベースの数理モデル開発に取り組んでいます。病原体の適応度地形は宿主の免疫応答により変化し、宿主の集団免疫は流行する病原体により変化します。従って、従来の個体群動態の枠組みを理論的に発展させる事で、インフルエンザウイルスの進化動態を正確に捕捉する事が可能になると考えています。ビックデータを取り扱う新たな研究領域を展開し、特に、感染症の制御という観点から基礎研究の社会的貢献を果たしていきます。
以下の動画は、開発した数理モデルにより記述される100年間にわたるインフルエンザウイルスの進化動態を“株空間”上で計算した例です。株空間の格子点はウイルス株に対応しており、格子点同士の距離はウイルスの遺伝的距離、及び、免疫学的を反映しています。動画”candidate strain”は年度ごとに出現する全ての株を示しており、過去に流行した株から逃げるようにインフルエンザウイルスが進化している様が伺えます。これは、宿主集団に蓄積した集団免疫が影響しているからです。動画”epidemic strain_1″と”epidemic strain_2″は、異なる10個の株空間上でインフルエンザウイルスがどのように進化するのかを計算した例です。流行株の進化動態は、ループ除去ランダムウォークに従って振る舞う様に見え、数学的にはハミルトニアンウォークとして近似的に記述できると考えています。株空間上で定義した統計量(平均二乗変位量など)の変化を詳しく追跡し解析する事で、インフルエンザウイルス進化の背景に隠れた法則を見つけ出し、流行予測に役立てる事を目的としています。
株空間上でのインフルエンザウイルスの進化動態。
参考文献
Yuuya Tachiki and Shingo Iwami, Evolution of seasonal influenza virus in a strain space, In preparation.
立木佑弥,岩見真吾.株空間内での季節性インフルエンザの進化:投稿準備中.